共和党は弾劾する!
- 信彦 首藤
- 11月5日
- 読了時間: 5分
ー5500億ドル対米投資の怪ー
大風呂敷・打ち上げ花火と言おうか、二期目のトランプ大統領の打ち出した驚愕政策は24時間以内のウクライナ停戦から始まって、200%関税とか、近隣国との貿易停止とか、ほとんど現実には実現していないが、それでも相手に「ほんとにやるのではないか?」と思わせ、それなりの対応を生み出し、一時的利益をアメリカ政府にもたらしている。世界はトランプ大統領の「目くらまし政策」に右往左往の対応を迫られているが、特に政権の安定しない日本では想像を絶するパニック対応となっている。
その典型が5500億ドルのアメリカ投資だ。しかもその投資案件の具体的内容はトランプ大統領が決定し、そこからの利益の9割をアメリカ、日本側は1割で分けるという驚愕の貿易交渉だ。脆弱な政治基盤に立つ石破総理は、経済不振に苦しみ、対米輸出依存度の高いむ経済界の意向に押されて、腹心の赤澤経済再生大臣をワシントンに日参させ、7月22日に関税・貿易・投資の日米合意を成立させ、これを政権の成果と宣伝した。
しかし、そもそも大規模な関税賦課など基本的な貿易システムを改変する権限はアメリカ憲法上、大統領ではなくアメリカ議会にある(憲法第1条第8節)。現実に、トランプ関税なるものが憲法違反であると連邦控訴裁判が行われており、最高裁で違憲判決が出れば、それまでにトランプ政権が勝手に課した関税分は返却となるだろう。
まして、大統領が外国と勝手に投資条件を決めるようなことこそ、アメリカ建国の歴史から言って憲法違反であり、そのようなものに日本は軽々に対応すべきでなかった。現に、北の脅威に晒され、対米交渉では日本よりはるかに弱い立場にある韓国は、同様の3500万ドルのアメリカ投資案を拒否した。常識的な外交対応と言える。
ちなみに、5500億読は現行為替水準では日本の名目GDP(40兆円)の14%近い80兆円に上る。これは国家予算の7割以上に匹敵する巨額である。赤澤大臣としては、この譲歩で、関税25%が15%にと、10%下げることができたと成果を強調するのだろうが、日本の対米輸出1480億ドルをベースに計算すれば、それによって得られる金額は148億ドルにすぎず、5500億ドルとは比較にならない数字だ。
10月に高市早苗氏が総理となり、減反政策からの転換など石破政権が打ち出した政策をつぎつぎと葬ったが、この5500億ドルのアメリカ投資は逆に、10月末のトランプ大統領日本訪問の引き出物の目玉ように、財界人を招いたパーティで、具体的な投資企業にアメリカ投資を確約させた。トランプ大統領が有頂天になり高市首相を持ち上げるのも当然だ。しかし、念のために言っておくが、それは決して信頼関係の醸成でも、日本に対するゆるぎない支持でもない。異文化理解の足りない日米国政治家の誤解だ。
当初、この投資案が公表された時点では投資は現金ではなく、実際にビジネス計算に基づく投資案件への金融的な保証のように受け取られた。常識から言えばそういうことだ。それでも大変な事態だ。日本国際協力銀行の総資産も350億ドルにすぎない。トランプ大統領の目前で約定書を前に笑みを見せる企業側も、はたして資産、内部留保、銀行借り入れで実現できる確信があるのだろうか?
ところが、アメリカの専門家側から流れてくる情報では、5500億ドルは投資案件の認定と融資保証ではなく、トランプ大統領が決めたプロジェクトに「前金」として全額をアメリカに送金することが求められているとのことである。
それはUSTRや財務省が公開した公文書ではなく、トランプ政権交渉者と赤澤大臣とのMOU(合意メモ)に書かれているらしい。。MOU(Memorandum of Understanding)というのは、密室の交渉の場にいた者だけが合意内容をまとめたものだが、通常は漠然とした合意内容が書かれている。ということは、後で日米が投資の履行を巡ってもめたときに、日本側がどんなに自己の根拠を主張しても、アメリカ側は「いやそうではない、あの場の雰囲気はこうだった。日本側の理解が間違っているのは通訳の問題だ」と主張すれば、いかようにもアメリカ側に都合のいいように解釈することができる。MOUはあくまでメモにすぎず、契約でも外交協定でもない。
そもそも、このような規模の資金の海外流出を、日本の貿易政策として認めうるのか疑問だが、その原資が企業の余剰金や内部留保などでなく、国家予算からの出金となれば、当然のことながら、政府予算案とその国会審議が前提となる。防衛費が倍増し、年金制度が破綻し、高額医療費や社会保障費の増大に苦しむ日本国の予算の中で、文教予算の15倍もの資金がいかなる名目で海外に流出されるものであろうか?また対象と投資内容のブレイクダウンのないまま、予算案に組み込めるものであろうか?
本件をとりあげたウオールストリートジャーナルの記事でも、この”ディール”が非現実的だと日米官僚がともに冷ややかな目で見ていることが書かれている。
しかし、これが非現実的で現実化しなかった場合、トランプ政権と日本政府との関係は大変難しいものとなろう。感情的になったトランプ大統領がどういう対抗手段をとってくるか、それは経済面だけでなく、安全保障分野での強硬姿勢をもたらすかもしれない。
日本はこれまで、問題や懸案の正面から向き合うのではなく、その場をとりあえず繕って、あとで事務的に少しずつ相手を軟化させるような方策を外交や政府間交渉でとってきた。そうしたやり方こそが、現在の国際政治環境では大きなリスク要因になる。
一刻も早く、政府は事実を認識し、国会の協力も得て、この不可解で難解なトランプ提案を骨抜きにするように全力を投じなければならない。





コメント