共和党は弾劾するーその2-
- 信彦 首藤
- 11月18日
- 読了時間: 4分

高市首相の台湾状況「存立危機事態」発言
就任直後の首相の思慮を欠いた発言や失態は「ハネムーンピリオド」として大目に見られることもあるが、あまりに非常識な発言や愚行は糾弾されるべきだろう。しかもそれは一般大衆むけの街頭演説などでなく、国家運営の根幹に関わる衆議院予算委員会での発言だ。
野党側の「台湾をめぐってどのような状況が存立危機事態にあたるのか?」との立憲民主党岡田氏の質問に対し、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、日本にとって存立危機事態になりうる」と返答した。
長年、保守・右派勢力を代表するような過激な言動を続けてきた高市氏が、まるで居酒屋談義のレベルの発言をするとは仰天するほかない。「タカ派、こわもての保守派。。。」なんてのは、マスコミが紙面PR用に作り上げてきたイメージで、現実には彼女の国防意識というのは、何の専門知識も研究や経験の裏付けもない架空の能力であることが露呈した。
この発言の問題点はあまりにも多く、その影響は深刻だが、いくつか例示してみよう。
(1)まず戦艦発言だが、中国の戦艦とは何か?黄海海戦の清国北洋艦隊の定遠・鎮遠ではあるまいし、中国の戦艦とはいったい何なのか?この言葉ひとつで、総理大臣たるものが、軍事いや国際政治の常識に欠ける素人であることが露呈してしまった。今後は各国とも、高市首相のレベルを考え、足元を見て、躓くような外交戦略を打ってくる。高市氏自ら招いた「総理大臣の存立危機事態」というほかない。
(2)存立危機事態とは2015年の新安保関連法に出てくる用語で、要するに単なる偶発的な戦闘や小規模武力衝突などではなく、日本国の生存と滅亡にかかわる重大危機のことに他ならない。他国が大規模に日本の国土に本格攻撃を仕掛けてくる、それに対し日本が総力を挙げて自衛し、国家の存続を守らなければならないような状況である。はたしてそれが近未来の台湾状況の問題なのか?尖閣諸島ならば、一応日本の領土であるから、そういう状況も考えうるが、遠く離れた他国のしかも中国の一部であると国際的に認識され、日本政府も認めている台湾に対する武力行使が、どうして日本の「存立危機事態」なのか?
(3)そもそも日本が自衛のためにとる軍事行動の対象を明言すること自体、日本の安保政策にとって大きなリスクとなる。たとえ対立を続ける国家があったとしても、それを攻撃対象と明言することは政策上避けなければならない。そんな国とは平和交渉も正常な外交関係も持つことはできない。そんな国が最大の貿易相手国で、観光のインバウンドを期待する国であるとすれば、もう笑うしかない。
(4)日本は長年、アジアの盟主として東南アジア諸国にも強い影響力を持っていた。しかし、今やかつては反中国であったインドネシアを含め、日本をアジアの盟主と考える国を見出すのはむつかしい。むしろ中国の一帯一路構想、影響力を増すグローバルサウス諸国、上海協力機構などを包含する巨大経済圏構想がアジアにおいて支配的であり、そのなかで、どのように日本が独自性を発揮していくかが日本の課題である。就任早々の首脳外交としてASEAN会議やAPEC首脳会議において日本初の女性首相として存在感を高めた高市首相だが、台湾をめぐる軽率な言動で、一挙にその成果を失った感がある。
それを取り戻すのは容易ではない。そもそも、軽率発言の失態を軽症にとどめ、次の外交に影響させない能力や努力も欠いていることが露呈してしまった。トランプ大統領なら、おそらく「ただのジョーク」と笑い飛ばすこともできたろうが、外交官僚が時間をかけて作り上げたガラスの合意は一度ヒビが入れば、修復はむつかしい。日本はまた外交の失点を突かれ、それを外交官僚がごまかして表面的な妥協を繕うという最悪の外交に陥っていく。
(5)この事態を利用して、自己のポイントを挙げるのは中国とアメリカである。中国側はこの失言に過大反応しても失うものは何もない。習近平主席との首脳会談で約束した友好関係を無分別に裏切った発言に国際社会の反応は厳しい。一方で、アメリカはこの高市失言を最大限利用して、日中の距離感を広げ、嫌中ムードを高め、日米軍事組織の一体化を推進していくだろう。
実は最大の問題は、この発言を引き出した立憲民主党の対応だ。本来なら、長年積み上げてきた台湾問題に関する政府見解をいとも簡単に予算委員会で覆した総理の発言は、辞任要求に発展してもおかしくはない。それほどの大問題なのに、最大野党でもある立憲民主党の反応が乏しいのは、総理を追い詰めれば、現時点で80%もある支持率をベースに高市政権が選挙に打って出る危険を勘案しているのだろう。しかし、同時に考えなければならないのは、立憲民主党を含む野党の中に、実は高市氏と同じレベルで台湾問題を理解し、同じような対応を考える議員が多いことだ。ポピュリズムが跋扈する日本政治において、中国の反発を刺激する言動を好感し拍手する勢力は確実に増加している。
高市氏の発言は外交のフィールドだけでなく、内政のフィールドにおいても、危険な要素を生み出したのである。
やはり高市総理は誕生させるべきではなかった。




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